書店中央線予選2008-08-20 Wed 20:19
日はもう暮れようとしていた。いつもの遅刻癖が昂じて最近家を出る時間が遅くなっている。 予選を打ちに立川へ行く前に寄らなければいけない場所があった。現代文の宿題、夏目漱石の“こころ”を読んで課題プリントを埋めるというものだった。私の家にはそんな本なかった気がするから買わざるを得ない。というわけで駅の近くの大学どおりにある書店へ足を進めている。 家を出る前は雨が降っていたらしく、道路の端は濡れ、空気も湿っぽかった。私が大学どおりに出て信号を待とうとすると、前に20そこらの男と高校生らしき制服姿の女がくっついているのが見えた。見た途端、私の顔はまるで苦いものを噛んだように引きつったであろう。若いカップルほどこの世で近寄り難いものはない、咄嗟に私はそう感じさせられた。きっとこの年頃で交際のひとつも無いものだから余裕がなくなってきているのだ、適齢期にも関わらず、結婚のけの字も出てきそうもない独身女性の心持ちに通ずるものがある。勝手にそう自分を誤魔化しながら男の横をすり抜け本屋へ入っていった。 お目当てのものは中に入って1分も経たぬうちに見つかった。かの小畑氏の表紙で飾られたそれは、夏休みの学生向けに作られたコーナーに置いてあった。他にも見慣れた漫画家の絵が表紙になっている有名小説がちらほら見えた。 手に取ったこころを裏返して値段を確認する。僅か300円ほどのリーズナブルな価格だった。会計を済ませてブツをバッグの中に放った。 店を後にした私は妙な達成感、というか肩透かしを食らったような気分だった。こんなにすんなり手に入るとは思わなかった、もっと店内をくまなく探し回って店員さんに場所を訊ねるくらいのことは覚悟の上だった。それがこうもあっさりと。いや、便利な世の中になったものだとしみじみ思った。 さて一緒に買おうと思っていた未来日記だが、22日のことや来週上野に行くことが先に浮かんで購入を断念した。次買うときは中古のを選ぶだろう。 国立駅から立川へ向かう。切符を買って改札をくぐろうとしたところ降車してきた人の波がどっと押し寄せた。左に避けて波に抗い進んだ。いつも国立はこんなに人が降りただろうか。いいや、先の人数は普通より数倍もあったろう。 理由はすぐわかった。出発しそうな立川行きの電車に駆け込んで、私は車内に流れるアナウンスを聴いた。武蔵境で人身事故があったらしい。この電車は30分遅れで終点立川に着くとのこと。 そのアナウンスと共にバリボリと物を食べる音が耳についた。ドアの硝子に私と、その後ろで悠然とドンタ コ ス!を頬張る少年の姿が写っていた。2人組で話しながら食べている。チーズのにおいが狭い空間を満たす。周りは何も言わない。こいつらにもいつか解かる時が来るだろう、と悟って私もそっとしておいた。というよりも誰も関わりたくないというのが本音で、それが今の日本の社会の根本にある感覚なのだろう。“他人に無関心な他人”に揉まれた世の中で育つ彼ら、もとい我々の将来は如何にしてこの国の基盤になるものか不安で堪らなくなった。 |
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